沈 建仁 氏(岡山大学 教授)、神谷 信夫 氏(大阪市立大学 教授)「光合成、残された最大のナゾを解明」
約200年にわたって世界の科学者が追い続けてきた植物の光合成研究で、最後に残された最大のナゾを、沈(しん)建仁・岡山大学教授と神谷信夫・大阪市立大学教授のグループが突き止めた。太陽光と水から酸素を作り出すための要となるタンパク質「光化学系U複合体」の結晶構造を解明したもので、米科学誌「サイエンス」は昨年の画期的な10大成果として、日本の小惑星探査機「はやぶさ」の帰還などとともにこの成果を取り上げ、高く評価した。今後の人工光合成の実現にも大きな弾みがつくとみられる。この成果の意味や、研究の苦労、裏話などを2人に聞いた。
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| 第1回 欧米のライバル研究所から賞賛相次ぐ |
(掲載日:2012年1月31日) |
| - まず、昨年12月の「サイエンス」で10大成果として取り上げられた感想から。 |
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| 沈 建仁 教授 |
うれしいことですね。「サイエンス」掲載直後に大学の理事から呼ばれ、初めて説明を求められました。
この論文は昨年4月に英科学誌「ネイチャー」に掲載されましたが、その段階ではあまり周囲の反応はありませんでした。もっとも日本中が東日本大震災で大混乱していたからでしょう。新聞にもほとんど紹介されませんでした。
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| 神谷 信夫 教授 |
科学者たちが最も注目している「ネイチャー」と「サイエンス」に紹介されたのですから光栄なことです。ライバル誌に掲載された論文を高く評価した「サイエンス」の編集者の見識はさすがだと感心しました。
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| - お二人の専門分野はかなり違いますね。 |
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| 沈 |
私は植物生理学が専門で、光合成を担う中心部のタンパク質「光化学系U複合体」の結晶作り一本でやってきました。原子の配列を見分けられる最小の距離である分解能が1.9オングストローム(1オングストロームは100億分の1メートル)という極めて精度の高い結晶作りに成功したのです。それまでは失敗の連続で、とても根気のいる地味な仕事でしたが、20年以上かけてやっと満足のいく結晶作りにこぎ着けました。
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| 神谷 |
私はもともと化学が専門で、沈先生の作った結晶に放射光という非常に優れた特性のエックス線を当てて構造を解明しました。その結果、光化学系U複合体の中にある酸素発生の中心は、マンガン4個、酸素5個、カルシウム1個と水分子からできていて、奇妙なことに「ゆがんだイス」のような格好であることを見つけたのです。「ゆがんだイス」とはいかにも座り心地が悪そうですが、実は水から酸素を作り出す時の重要な役割を担っているのです。
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| - 光合成の反応や仕組みの詳しい説明は後で伺うとして、今回の成果の意味するところは何ですか。 |
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| 神谷 |
先の「ゆがんだイス」がタンパク質と結びついて水を分解し酸素を発生させる大切な触媒の働きをしている酵素の形が初めて分かったのです。植物や藻類が長い期間をかけて獲得した複雑な光合成反応は、欧米を中心に200年もかけて徐々に解明されてきたのですが、「酸素発生」の詳しいメカニズムは分からず、最後に残された最大のナゾだったのです。
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| 沈 |
われわれはかなり頑張ったつもりですが、今回の論文を出すまでは、実は欧州勢に負け続けていました。やっと逆転大ホームランを放つことができて、ほっとしました。でもこれで研究が終了したわけではなく、光合成を促す途中の反応過程をきちんと解明しなければならない。近く完成する新しい分析装置を使って、もっと詳細な解明をしたいのです。
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| - ライバルの研究者も、この成果には注目しているのでしょうね。 |
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| 沈 |
英国インペリアルカレッジとドイツのマックスプランク研究所の研究グループがライバルです。彼らはもちろんのこと、米国やスウエーデンなどからも祝福の電子メールをいただきました。
「光合成に関するゴードン国際会議」など主要な国際学会から、基調講演や招待講演の呼びかけが相次ぎ、いくつかは応じきれずにお断りするといううれしい悲鳴を上げています。研究者としてとても名誉なことです。米国からはアメリカ製の機器をこれからの構造解析に使わないかとの申し出もありましたね。もちろん日本製で十分できますからお断りしましたが。
また、「ネイチャー」に載ったわれわれの論文は、昨年12月までの8カ月間に、世界の研究者たちから約100件も引用されています。これは物理学などと違って、比較的研究の進展がゆるい生物学の分野では驚異的な注目度といえるでしょう。
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