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学術、科学技術がかかわる世界でいま何が求められているかを、第一線の研究者やジャーナリストに提言してもらいました。
オープンでフラットな科学・技術政策を
医師、NPO法人サイエンス・コミュニケーション 理事 榎木 英介 氏
(掲載日:2010年5月26日)
2010年3月初旬、一通のメールが舞い込んできた。送り先は「総合科学技術会議」。何事かと読んでみたら、3月20日に開催される「科学・技術政策について地域からご意見を聞く会」に参加してほしいという内容だった。
これには驚くと同時にうれしかった。というのも、自分自身が大学院博士課程を中退し、進路に模索しながら生きてきたこともあり、かれこれ10年以上、若手研究者が抱えるさまざまな問題について、さまざまな場で訴えてきたからだ。新聞や雑誌に記事を書き、本を出し、会合を開いてきた。時に政党や官僚が主催する会に呼ばれることもあったが、政府首脳と話をすることはなかった。
これには伏線がある。昨年の事業仕分けで、特別研究員事業をはじめ、若手研究者に関係する事業の多くが「縮減」という結果を突き付けられた。私は、この状況に危機感を覚え、若手研究者のネットワークの立ち上げに奔走した。また、会合を開き、若手研究者だけでなく、さまざまな立場の人たちの声を聞いた。それをまとめ、政府関係者に文章を送付したりもした。こうした活動が関係者の目に留まったのかもしれない。
「地域からご意見を聞く会」は「科学・技術ミーティングin大阪」と名を改め、予定通り3月20日に開催された。出席者は平松大阪市長や大学、財界関係者など、通常の政府の会にも呼ばれそうな方々とともに、理化学研究所チームリーダーの上田泰己さん、藤田保健衛生大の宮川剛さん、そして私のような、比較的若手と称される人たちもいた。さらに、数学オリンピック金メダリストの高校生、今村志郎さんが参加していたのが目をひいた。若手の半分くらいの年齢だ。
市長や大学、財界関係者の発言のあと、若手研究者が発言した。詳しくは総合科学技術会議のページにすべて公開されているので、それをご覧いただきたいが、それぞれ若手らしい意見を発表したと思う。
ほかの方々が若手研究者の研究者としての在り方について詳しく述べているので、私は若手研究者のキャリア対策について発言した。ポスドク問題が深刻化する中、成長戦略が「博士の完全雇用」を掲げるなど、さまざまな対策が考えられているが、それが単なる失業対策になってしまい、若手研究者のプライドを傷つけていることを指摘した。そのうえで、若手研究者を社会に貢献する「人財」として活用することを提案した。活躍の場としては、最先端の「カッテイングエッジ」な科学と、すでに確立している理科教育だけでなく、例えば科学・技術と社会をつなぐ活動を含めた「中間的な科学」が重要で、科学・技術情報が誰でも読めるような情報公開を含めた、自発的な科学・技術活動の活性化を促す施策の充実を訴えた。
そして、これが一番言いたかったことなのだが、若手研究者も含めたさまざまな立場の人も等しく意見が言える「オープン」で「フラット」な科学・技術政策の実現を強く要望した。
残念ながら現状の科学・技術政策は、各省や研究者が自分の立場を主張するだけでまとまっていないように見える。司令塔である総合科学技術会議は、各省の意見を列記するだけの「ホッチキス」とさえ揶揄(やゆ)されている。しかも、研究現場から離れた著名研究者だけが政策を左右している。
これを改革し、国民、若手の声を政策に反映させる仕組みを作らなければ、科学・技術政策は迷走するばかりだ。もちろん、それぞれが利益を主張するだろうが、誰でも等しく利益を主張し、それを公益、未来の視点から判断するのが政治の役割だ。特定の利益手段に左右されるのが問題なのだ。
そういう意味で、若手や高校生まで発言することができた今回のミーティングは画期的であり、その点は評価したい。もちろん、これらの発言がどの程度実際の政策に反映されるのかが問題であり、単なるガス抜きに終わっては意味がない。迷走する現政権の科学・技術政策を厳しく見ていく必要がある。
ただ、希望はある。津村啓介・内閣府政務官が、私のスライド(科学・技術政策が省益や特定の研究者の利益に左右されているという図)を示し、これを改めなければならないと述べたのだ。その後、ミーティングで若手から挙げられた課題が検討され始めていると聞く。次回開催される仙台でのミーティングは、若手、女性研究者のみが参加するという。
今回のミーティングを、科学・技術政策が変わるための節目にするためには、政府とともに私たち一人一人が、意識を変え、行動していかなければならない。もし、科学・技術政策が若手や国民の意見を取り入れるものになったとしたら、私たち自身も変わらなければならない。今までは、政府の批判や愚痴を言っていれば済んだ。だが、これからは、当事者として、政策にかかわっていかなければならない。すべてを「お上」にお任せする時代は終わったのだ。
今回のミーティングが、若手研究者を含めた多くの人たちが、科学・技術政策のあり方を考える機会になることを、1参加者として願っている。
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榎木 英介(えのき えいすけ) 氏のプロフィール:
神奈川県立柏陽高校卒、1995年東京大学理学部生物学科動物学専攻卒。同大学院総合文化研究科博士課程中退後、神戸大学医学部医学科に学士編入学、2004年卒業。医師免許取得。06年博士(医学)。09年神戸大学医学部附属病院特定助教。現在、兵庫県内の病院に病理診断医として勤務。03年
NPO法人サイエンス・コミュニケーション
を設立し、代表理事に就任(09年まで)。現在は理事。自身が研究者としてのキャリアに迷い方向転換したこともあり、若手研究者のキャリア問題を考える活動に加え、女子中高生のための科学塾への参加など、科学技術コミュニケーションに関する活動も。10年任意団体
サイエンス・サポート・アソシエーション(SSA)
を新たに立ち上げ、科学・技術政策の在り方を考える活動を開始。
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